同じ名前を持つ、2つの「森の木琴」
「森の木琴」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
多くの方の記憶にあるのは、2011年に大きな話題となったあのCM(NTTドコモ)かもしれません。
一本の丸太で作られた巨大な木琴の上を小さな木球が転がり、深い森の中にバッハの旋律が静かに響き渡る……。
息をのむほど美しく、幻想的な映像作品です。
しかし、あのアート作品の裏側には、制作陣が込めた“もうひとつの静かなメッセージ”がありました。
そして今、私たちが作ろうとしている「森の木琴」があります。
同じ名前を持ちながら、この2つは異なる役割を担っています。
2011年の作品が「森の荒廃に対する問題提起」であったとするなら、
私たちの木琴は「豊かな森を取り戻すための、ひとつの解決策と未来の提案」です。
この2つを繋ぐとき、「森の豊かさとは何か」という本当の答えが見えてきます。

日本の森が抱えるリアルな課題と向き合いながら、私たちが今できる活用法を模索しています。
1. 2011年版が映し出した「森の沈黙」というSOS
あの美しいCM映像を思い出してください。鬱蒼とした森、光の届きにくい木々。
実はあの作品が提示していたのは、単なる自然美ではなく「光を失い、痩せてしまった日本の森の現実」でした。
木琴を作る過程で直面したリアルな課題――
- 木が痩せていて、音が均一に響かない
- 樹種が偏り、響きのグラデーションが生まれない
- 土壌が痩せ、生命力を失った森が静まり返っている
光が届かず、手入れが行き届かない人工林や荒廃した森では、
木々もまた生きる力を削がれ、豊かな音を奏でることができません。
あの大仕掛けな木琴から流れる美しいバッハの調べは、
「もし森が豊かであったなら、木々はもっと深く美しく響くはずだ」という、
荒廃した森からの切実なSOSであり、静かな告発でもあったのです。
近年問題となっている「ツキノワグマの人里への出没」なども、
根っこを辿ればこの「森の生態系の単調化・荒廃」と無縁ではありません。
森の健康が損なわれると、そこに生きるすべての生命のバランスが崩れていきます。
2. 「豊かな森」が生み出す、多彩な木琴のグラデーション

樹種ごとに異なる木目や色あいの重なりは、まるで一本一本の木が持つ固有の音色を織り交ぜた「木琴」のハーモニーのようです。
2011年版が「問題提起」なら、
私たちが目指す「森の木琴」は「解決への道標(ポジティブな未来像)」です。
私たちが着目するのは、日本の森が本来持っている多様性と個性です。
スギやヒノキといった針葉樹だけでなく、
広葉樹であるヤマザクラ、クリ、カエデ、ミズナラ、ナラ……。
森が健康であり、多種多様な樹種がのびのびと育っていれば、
そこから切り出される木材は一つひとつ全く異なる密度、硬さ、そして「音色」を持ちます。
- 固く澄んだ高音を響かせる木
- 温かく柔らかい低音で包み込む木
- 木目の重なりが独特の余韻を生む木
職人の技術によってそれぞれの木の個性を引き出し、組み合わされた木琴は、
まさに「豊かな森そのものの響き」を奏でます。
多様な樹種が育ち、豊かな土壌と澄んだ水が循環している森だからこそ、
深く美しいハーモニーが生まれるのです。
言い換えれば、「木琴の音を聞くことは、森の健康状態を診断すること」でもあるのです。

3. 小規模木質資源のフル活用が、森に光を取り戻す
では、どうすればそんな「響きあう豊かな森」を取り戻せるのでしょうか。
そのカギとなるのが、私たちが実践している小規模木質資源のフル活用と地域材の巡りです。
大口の建築材として流れないような曲がり材、細丸太、小径木、あるいは様々な種類の広葉樹。
これまでは「価値がない」と見過ごされたり放置されてきた木々にこそ、
豊かな音色という宝物が眠っています。
私たちはウッドマイザー(製材機)を活用し、森の現場や地域の拠点で
必要な分だけ木を一本一本丁寧に挽き割ります。
大がかりなインフラや大量伐採に頼らず、その土地の木材を小回りの利く方法で価値化する。
- 多種多様な樹種を活かす(生態系の保全)
- 一本の木、細小径木まで無駄なく使い切る(資源のフル活用)
- 地域内で伐採・製材・加工・消費循環をつくる(地域経済と森の再生)
人が森に適切に手を入れ、地域材を活かし続けることで、
森に再び光が差し込みます。光が入れば土壌が蘇り、下草が生え、
多様な生き物が戻り、水が育まれ、やがて海へと繋がっていく。
「森の木琴」を作るアプローチそのものが、森を再生させる循環の歯車になっているのです。

規格外とされてきた木にも、固有の美しい表情と音が眠っています。
本物の音色とは:森が豊かなら、音はもっと美しくなる
2011年の「森の木琴」は、森の沈黙と SOS を静かに映し出しました。
私たちが提案する「森の木琴」は、森が再び豊かな響きを取り戻していく未来を示したいと考えています。
木が美しい音を奏でるということは、その木が育った森が健康に生きている証です。
地域にある一本一本の木に光を当て、ウッドマイザーで丁寧に板へと変え、人の手で新しい命を吹き込む。
森と人が再び心地よい関係で繋がり直したとき、私たちの暮らしにはもっと豊かで、心地よい音楽が響き渡るはずです。
森の再生は、小さな一歩、一本の木、そして一つの音から始まります。

人が適切に森と関わり、手を入れることで、こんなにも豊かで心地よい生命の循環が戻ってきます。
森が健康を取り戻したとき、私たちの暮らしにはもっと美しい音が響き渡るはずです。
林業ー製材ー加工ー伝統建築まで、一気通貫する「職人」|美山里山舎




